昭和56年4月23日 蔵前国技館 虎の仮面を付け、金色のマントに身を包んだ謎のレスラーがリングに飛来した・・

黄金の虎伝説 タイガーマスク

      既存のプロレス概念を超越した立体殺法・・・「四次元プロレス」

アントニオ猪木がスタンハンセンとの最後のNWF争奪戦を制し、その王座を返上したまさにその日、黄金の虎伝説は幕を開けた・・・
藤波辰巳の活躍でJrヘビー級と言うカテゴリーが定着した新日マットに一人のレスラーが登場した。劇画のヒーロー「タイガーマスク」そのままの?マスクを被り、金色のマントを翻して颯爽とトップロープを飛び越えコーナーポストの上にその身を立てた。その出で立ちや登場スタイルはまさに、衝撃的かつドラマチック(死語?)!見ている人の度肝を抜いた。そして試合開始直後、日本初上陸の謎のマスクマン「タイガーマスク」に更なる衝撃を与えられる・・・。
Jr時代の藤波のライバルでもあったダイナマイトキッド相手に様々な技を繰り出し翻弄するタイガーマスク。華麗な空中殺法を見せたかと思うと、沢村忠ばりのしなやかなキックを放ち、グランドに移行すれば関節技をサラリと使いこなす。最後は、プロレスの芸術品「ジャーマンスープレックス」を決め、衝撃のデビューを果たした。

息つく間も無く縦横無尽に華麗にマットを飛行し、多彩な技を繰り出す。ルチャ、マーシャルアーツ、サブミッション。それらを多彩に使いこなす正体不明の謎の男「タイガーマスク」に誰もが息を呑んだ・・・。 あくまでも私的発言であるが、最後に放ったジャーマン、アレは彼の実力の高さを証明した。傍目から見れば形の崩れた出来損ないの様に見えるが、あれこそまさにゴッチ式(私は猪木ベタ足ジャーマンと呼んでいる)抱えてからの溜め、ブリッチの高さ、共にパーペキ。決まった瞬間、レフリーが顔を顰めた程だった。そう、アレは崩れたのでは無く、あの受身の上手いキッドが受けられなかったのだ!だから不自然な形で落下した為、崩れた様な形になった!と、私は未だに思っている。そしてもう一点、技の華麗さもさることながら、特筆すべきは抜群の跳躍力である。クロスチョップ、ドロップキックなどのオーソドックスな技一つをとっても打点の高さが違う!加えて言えば、滞空時間の長さは溜めに繋がり、それはそのまま破壊力(威力)に比例する。Jrヘビーの体格でありながら一流のヘビー級相手に互角に渡り合えたのはこうした部分が背景にあったからでは無いかと、私は思っている。勿論、彼自身の実力の高さがあったのは言うまでも無い・・・。

「虎包囲網」

センセーショナルなデビューを果たしたタイガーマスク。その華麗なテクニックは、多くのプロレスファンを魅了するのに時間を必要としなかった。その中で生まれた名勝負で数多くのライバルレスラーが現れる。次から次へと現れる強豪をことごとく撃破し、デビュー以来1年2ヶ月と言う短期間でWWF世界Jr、プロレス組織の最高峰のベルトNWA世界Jrの二冠王となる。マスクマン初のNWA奪取、日本人としては、ヒロ・マツダ以来二人目の快挙(後に、自ら「日本人宣言」をするのだが、この時は国籍すら不明であった。)
ここで補足めいた事を言うと「1年2ヶ月って短期間か?」と思う人も多いだろうが、この時代、NWA、WWF、AWAと言う三大組織の権威は絶大で、その組織の最高峰の証である「ベルト」は、お飾り同然の今とは比べ物にならない程の価値があった。いくら日本で絶大な人気があったとしても、デビュー1年程の実績で挑戦出来るものでは無かった。
そのベルトを二つも取ったのだから、まさに「快挙」である!と私は思う。
この快挙に慌てたのは、当のNWAとWWFである。両組織の関係はイトーヨーカドーとダイエーみたいなもの、当然「王座の掛け持ちを許すな!」と言う事になる。そこで利害の一致をみた両組織は次々と刺客を送り込んでくる。「刺客」と呼ばれる実力者達を挑戦者として送り込み、虎捕獲の包囲網を引くも、その刺客達を返り討ちにし、二大組織が張り巡らした罠をことごとく食い破るタイガーマスク。そのさなかのタイガー「日本人宣言」 ボブ・ガイゲルとビンス・マクホン、両会長の仏頂面が目に浮かぶようである・・・。反則と言う策を弄せず正々堂々と勝敗を決する。その爽快な試合内容と、リング外での穏やかで思いやりのある優しい人柄は、いつしかプロレスと言うジャンルを飛び越え、様々な人達に支持されるようになった。

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