「宿命のライバルは、相手を倒してこそ、サバイバル抗争に生き残れるのだ。 ・・・藤波の右膝は、長州の全体重を受け、ボキッと不気味な音をたてた。その音は新たなる抗争の幕開けの音だった・・・」 〜古舘 伊知郎〜
革命戦士・長州 力・1
昭和57年10月8日 後楽園ホール。
闘魂シリーズ開幕戦のメインカード、アントニオ・猪木、藤波辰巳、長州力vsブッチャー、アレン、ジョーンズの6人タックマッチ。
この日、プロレス界を揺るがす事となる歴史的逆転劇が巻き起こる・・・・。
試合開始直後、猪木と共にコーナーに戻ろうとする藤波を長州は「キッ」と睨み付けて「何で、俺がお前の尖兵役をしなければいけないんだ?」そう言い放ち、「お前が行けよ!」と言わんばかりに藤波の肩を突くと、さっさとエプロンに戻ってしまった。
不穏な空気を悟ったかのように静まり返る場内、そんな中ゴングは打ち鳴らされた。
試合中、長州と藤波は終始互いのタッチを拒みあい、猪木は外人組みに捕まりながらの孤軍奮闘となった・・・そして・・・必要なまでにタッチを拒む長州の顔面に藤波の張り手が飛んだ。試合そっちのけで殴り合いを始めた藤波と長州。
試合は藤波がジョーンズを押さえ込んで勝利したものの試合終了後も二人の殴り合いは続き、藤波は「長州!何で、お前は俺に突っかかってくるんだ!そんなにやりたいなら、今ココで決着を付けようじゃないか!」と言い放った。
それを聞いた長州は「俺はずっと考えてたんだ、貴様が世界チャンピオンなら、この俺も世界チャンピオンだったんだ!!いつまで貴様の後を歩き続けなきゃいけないんだ!言っておくが、藤波!・・
俺はお前のかませ犬じゃないぞ! |
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10月22日、広島で行われた因縁の対決はまさに「竜虎」相打つ壮絶な一戦となった。
これまで常に藤波の後塵を拝してきた長州。エリートとして入団してきた長州に対し、まさに丁稚からココまで這い上がってきた藤波。
お互いの意地がモロに激突したこの一戦は、結局両者の意地が先行、試合続行不可能とみなされノーコンテストとなった。結果は、両者、観客とも納得出来ない結果ではあったかも知れないが試合自体はいい勝負だったと、オイラは思う。そして、試合後の両者の表情を見て感じたのは、憎悪だけでぶつかった二人が、この時初めてお互いを「本当のライバル」として認め合ったのではないか?そんな一戦だったと思った・・・。
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11月4日、蔵前国技館。第二ラウンドは藤波の持つWWFインターヘビー級の王座を賭けた一戦となった。
ゴング前に長州は藤波を急襲、返す刀でバックドロップ。序盤は長州ペースで試合は流れていった。試合中盤、長州の放ったラリアットを藤波がスルリと交わして長州の両腕を取った。次の瞬間、二人はもつれる様にリング下に転落。場外でコブラツイストを決めた藤波を長州は強引に腰投げで振り解いた・・・場内の歓声は一瞬にしてどよめきに変わった・・・。長州の放った腰投げで藤波の体は場外フェンスを飛び出していたのだ・・・。長州、痛恨のフェンスアウト負け・・・。主観ではあるが、「フェンスアウト」本当に、つまらんルールである・・・・。
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その年の暮れ、アメリカに渡った長州はマサ・斉藤、小林邦昭等と共闘、維新軍を結成、革命の狼煙を高々と上げる。
年が明け、元旦から行われる「新春黄金シリーズ」から維新軍の革命の嵐は暴風となって猛威を振るった。 1月6日、坂口征二、キラー・カン組VS長州力、マサ・斉藤組の一戦でキラー・カンがパートナーである坂口にニードロップを慣行、事実上の維新軍入りを満天下にアピールした。 キラー・カンの参入により、勢いに乗る維新軍は快進撃を続け三度竜虎は激突する・・・。
昭和58年4月3日 蔵前国技館 WWFインターヘビー級選手権試合。
王者 藤波辰巳VS挑戦者 長州力
ゴングと同時に強襲をかけたのは前回の対決同様長州であった。しかし今回は前回とは違い両者共熱くなりながらも冷静にお互いの動きを見ているのだろう、試合は「差しつ差されつ、取り取られ」と言うグランドの攻防へと流れていった。
中盤、長州のサソリ固めを藤波はかろうじてブレイク。ココから流れは一気に激流へと変わった。藤波は長州の背後を取ると、そこからジャーマンの体制に入った。ここで二人の一瞬の攻防が展開される。
この「展開妙」こそが、この試合の「明暗を分けた」とオイラは思っている。強引に投げようとする藤波、それを重心を下げてこらえる長州。
ここであえて個人的な見解を述べさせて頂く・・・猪木同様、藤波は返し技の天才である、あそこで重心を落とした長州を丸め込むには最大のチャンスだった筈だ。それなのになぜ?藤波は強引なまでにジャーマンを狙ったのか?確かに試合の流れから行けば、終盤これが決まれば決定的な致命傷を与える事が出来ただろう、しかし、丸め込んでも試合は決められたかもしれない。
この時、藤波は勝つ事ではなく、「長州を投げる」という事に己の意地を賭けたのだと、オイラは思う。
一方の長州も、不自然に投げられるより、投げ受けを取った方がダメージは少ないし、終盤の精神的攻防はスタミナを大きく浪費する。加えて言えば、返し技のうまい藤波に対して重心を下げ、丸め込まれやすい防御姿勢をとったのは、やはり長州が「投げさせない」と言う事に己の意地を賭けたからだ。まさに魂の攻防。一瞬、長州の両足がわずかに浮いた・・・すかさず両足を踏ん張ったその瞬間。藤波の右膝の靭帯が激しく隆起する。結局、この攻防は藤波に軍配はあがったものの、決定打にはならなかった。この時すでに藤波の右膝は関節としての機能を失っていた。それどころか並みの人間なら立っていられない程の激痛に襲われていた筈である。それでも藤波は立ち上がりドロップキックを放つ。それをスカした長州も藤波の異変には気付いていた筈である。三度立ち上がる藤波めがけ「お前がどんな状況であろうと、俺はお前を全力で倒す!それが、最高のライバルへの礼儀ってもんだろう・・・」そう言わんばかりに、藤波めがけて長州の右腕がうなりをあげる・・・(普通、勝負事で相手の弱点を攻めるのは当たり前なのだが、なぜかこの時はそう感じた。長い事プロレスを見てきたが、こんな事を感じたのは後にも先にもこの試合だけである・・・。)長州は藤波の髪を鷲づかみにして、引きずり倒す様にフォールに行った・・・16分39秒、体固め。激闘の幕は下りた。
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勝利の瞬間マサ・斉藤と抱き合う長州、一方、破れた藤波はリング上で大の字となっていた。この試合は勝敗を度返しにして、本当にいい試合であった。正直、長州ひいきの私ですら、後半はどちらが勝っても良いと思ったほどだ。勝った長州、破れた藤波。双方ともに汗と涙で顔をクシャクシャにしていた・・・それが、見ている側に更なる感動を与えた。こうして劇的な王座交代劇となったこの試合は、私の、私的ベストバウトの一つである・・・・。